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サンプルシナリオ2-➀

  • まき田お茶子
  • 2019年9月9日
  • 読了時間: 8分

待ち合わせをした駅で、オレは一度時計を確認して、人の行き交う通路に目を向けた。

彼女の姿は、まだ見えない。

遅れると連絡があってから、30分程度経過した。


【達也】「最近忙しそうだったからな……」


今日会うのは無理かもしれないな、と思い始めたそのとき――。


【アリサ】「タツヤー! マイダーリン!」


オレの名前を呼ぶ声がしてはっと顔を上げる。

前方からかけてくる人影……と、それを見て驚く人たちの顔が、目に飛び込んできた。

長身と抜群のプロポーションで、今日もよく目立っている。

サングラスをしていても、溢れ出るオーラが一般人ではないのだ。

オレは集まる視線に気後れしつつも、手を振って応えた。


【アリサ】「遅れてしまってごめんなさいですわ。撮影が長引いてしまって……」

【達也】「いや、いいんだ。こうして時間を作ってくれたことが嬉しいよ」


ひとまず会えたことにホッとしながら言う。

人気モデルであるアリサにとって、スケジュールに数時間の空きを作ることがどれほど困難かは、オレなりに理解している。


【アリサ】「ああっ! もうこんな時間……。映画の上映時刻を過ぎてしまいましたわ……」

【達也】「まぁ、数分だし、今から入っても大丈夫だろ」

【アリサ】「で、でも、ちゃんと最初から見るべきですわ……。私だって、タツヤの好きなシリーズを見るのを楽しみにしていたんですもの。タツヤだってそうでしょう?」

【達也】「ん……まぁ、楽しみだけど。映画のことは、オレはそんなに気にならないよ」


B級のアクション映画だ。

少し見逃したくらいで話が分からなくなるような緻密なストーリーなどはない。


【アリサ】「いいえ。私、映画はあの注意喚起の独特なダンスから見ないと気が済みませんの」

【達也】「そうなんだ……」


カメラの顔の人がキレのある動きで踊るお馴染みのあれか……。

もはや当たり前のように見ているが、そういったものにもファンはいるものだなぁ。


【アリサ】「お願いですわ、タツヤ……。今度一日オフの日にリベンジさせてほしいですの……。何としてでも、その日は明けておきますので」

【達也】「そこまで言うなら……。でも、いいのか?」

【アリサ】「ええ。こんなこともあろうかと、一年以上前から空けておきましたの。次の日曜日が、ちょうどその日ですわ」

【達也】「一年以上前から……」


さすが、人気モデルはそんなに前からスケジュールはびっしり埋まっているらしい。


【達也】「ていうか、こんなこともあろうかとって、オレたち付き合い始めてからまだ二か月程度だし……」


そんな時分に、一体何を想定していたのやら。


【アリサ】「いいんです。心身の健康のためきちんとした休養を取るのも仕事のうちなのですわ」

【達也】「なるほど……」


さすがのプロ根性だ。


【達也】「オレの方も、その日で大丈夫だ。映画は次の日曜に行こう」

【アリサ】「ええ。感謝ですわ」


アリサがにっこり微笑む。

オレとの約束を楽しみにしてくれているのがわかり、嬉しくなった。


【アリサ】「でも、今日はどうしましょう。せっかく来てくださったのに、予定がなくなってしまいましたわね」

【達也】「そうだな……。でも、あんまり歩き回るのも……」


アリサの知名度を考えると得策とは言えない。

今こうして立ち話しているだけでも、遠巻きに向けられる視線を感じるのだ。


【アリサ】「別に、人に見られるのくらい、私は気になりませんわよ。むしろ、タツヤとのラブラブっぷりを見せつけてやりたいくらいですわ」

【達也】「オレは気になる……」


アリサがメディアで恋人がいることを公言しているから、オレに向けられる好奇の視線は一際熱く感じられる。

それに周囲のこの空気、もし誰か一人でも話しかけてきたりすれば、それを皮切りにあっという間に囲まれてしまいそうだ。


【アリサ】「確かに、できれば二人きりの時間を静かに過ごしたいですわ……。誰にも邪魔されずに」

【達也】「あっ、えっと……」


アリサの手がオレの手に軽く触れてきたので、オレは急にドキッとして、慌てながら頭を巡らせる。

誰にも邪魔されず、アリサと二人きりで過ごせる場所――。

ぱっと思い浮かんだ考えを、オレはつい口走った。


【達也】「オレの家……来る?」

【アリサ】「え……」


アリサが目を丸くして瞬きを繰り返すのを見て、我に返った。


【達也】「いや、その……今日は誰もいないから……。別に連れ込もうとか思ったわけじゃなくて……」

【アリサ】「ダーリン! 誘ってくれるなんて嬉しいですわ。私たち、ついに一つ屋根の下で過ごせる関係になったのですわね!?」

【達也】「そ、その言い方はまだ何か違う気もするけど……」


遊びに来る程度でその言い方をしていいかはわからないが、アリサは喜んでくれた。


【アリサ】「行きたいですわ! タツヤの家に」

【達也】「よし……。じゃあ、行くか」


平静を装いつつ頷く。

オレの誘いに応えたということは……少しは期待してもいいのだろうか。




【アリサ】「ここが、タツヤの部屋……」


オレの部屋に案内すると、アリサはくるくると瞳を動かして周囲を眺めた。


【達也】「狭いけど……。お茶入れてくるから、くつろいでてくれ」

【アリサ】「では、お言葉に甘えて」


お茶を入れて戻ってくると、アリサはローテーブルに頬杖をついて本棚を眺めていた。


【アリサ】「タツヤ……。お茶、ありがとうですわ」

【達也】「何か興味のあるものでもあった?」

【アリサ】「タツヤの趣味なら、どれも面白そうですわ。でも、あれ……」


そう言って指さしたのは、雑誌が並んでいるスペースだ。


【達也】「ああ。アリサが表紙だったから、つい……」


照れくさくなりつつ頬を掻いた。

付き合い始めてからのものばかりだが、それでも冊数は多い。


【アリサ】「嬉しいですわ……すごく」

【達也】「ああ……。どれもよかった」


女性誌が多くて気恥ずかしかったが、表紙で微笑むアリサを見たら、買わずにはいられなかった。


【アリサ】「何だか、初めての感覚です……。人に写真を見られてこんな気持ちになるなんて……」


アリサは少し困惑したように呟いた。

その頬が赤く染まっている様子に、オレは見入ってしまった。


【達也】「オレ、芸能人とかあんまり興味なくて、今まで写真目当てでこういう雑誌を買うことはなかったんだけど……こうしてみると、やっぱりすごいんだな」


アリサの魅力に、改めて気付いた。

もちろん、生で見ると隣にいるのが信じられないくらい可愛いのだが、こうしてモデルとして見るとまた違ってくる。

写真の奥に、世界観を感じるのだ。

アリサを中心に作り上げられた世界が、切り取られてそこにある。

その表現力は、やはりプロのものだった。


【アリサ】「ほ、褒めすぎですわ……もう!」


アリサは照れたように言うと、赤くなった顔を冷ますように手で扇いだ。

すると、慌てて思い切りパタパタやったのがまずかったようで、その手が紅茶を注いだカップに当たった。


【アリサ】「あっ、熱……!」

【達也】「危ない……!」


こぼれる前に何とかカップを押さえた。


【達也】「大丈夫?」

【アリサ】「ええ……。ありがとう……」

【達也】「手も、平気か? かかったりしてない?」

【アリサ】「え、ええ、あの……はい……」


モデルの肌に火傷などさせては大変だ。

念のため見ておこうと、カップにぶつかった手をそっと取る。

白くて細い、しなやかな手だ。

滑らかな肌に触れて、思わずため息が出そうになる。


【アリサ】「あ……。タツヤの手……」

【達也】「ん?」

【アリサ】「大きいんですのね……。それに、思っていたよりもその……しっかりしていますのね……」

【達也】「そ、そうかな……」


オレがアリサにそうしかけたように、アリサはゆっくりとオレの手に指を這わせた。


【アリサ】「素敵ですわ……」

【達也】「アリサの方こそ……」


柔らかな体温がくすぐったい。

でもそれ以上に、触れ合った手から伝わってくるアリサの存在感に、胸の鼓動が急速に高まっていく。


【アリサ】「タツヤ……」

【達也】「お、おう……」


唐突に、アリサが呟くようにオレの名前を呼んだ。

同時にきゅっと握られた手に意識を持って行かれつつも、返事をする。


【アリサ】「どうしましょう……。私、タツヤとこうしていると、すごく安心できるのに……今はどきどきの方が強くなっていって……」


戸惑うように言って眉根を寄せる。

その顔が痛いほど切なげで、オレはすぐにでもアリサを抱き締めたい衝動に襲われた。


【達也】「アリサ……」

【アリサ】「あっ、タツヤ……」


握り返した手を、そっと引き寄せる。

近くなった体にそっと腕を回した。

吐息が触れ合うような距離に、顔がある。


【達也】「いいか?」

【アリサ】「もう……。聞かなくていいって、言っているでしょう……?」


アリサが目を閉じる。

こちらを向いて少しだけ突き出された唇に、そっと自分の唇を重ねた。


【アリサ】「んっ……ちゅっ……」


柔らかい。

見るからにぷるっとした、瑞々しい果実のようなそれは、オレを受け入れるように薄く開き、甘い吐息をこぼした。

一度触れ合うと、求める気持ちは膨らんでいく。

深く口付けて、舌を絡め合う。


【アリサ】「んふっ……ぁっ……んぁっ……ちゅくっ……タツ、ヤ……」

【達也】「アリサ……」

【アリサ】「んんっ……ふぁぁ……ぁふっ……」


お互い慣れないキスに、酸欠状態だった。

それくらい夢中になっていた。


【アリサ】「あぁ……。何だか、クラクラしてきましたわ……」

【達也】「オレもだ」


しかし、それが不思議なくらい心地よくて、これが余韻というやつか、なんて思ったりもした。

それだけではない。

今のキスで、オレの体には明確に変化が起こってしまっていた。


【アリサ】「タツヤ……? どうしましたの?」


急に腰を引いたオレに、アリサが首を傾げている。


【達也】「い、いや、その……」


アリサに見つめられたオレは、しどろもどろで股間を隠す。

アリサは目を丸くした。


【アリサ】「あら……」

【達也】「う……」


窮屈になったそこに、アリサの視線が向けられる。

いたたまれなくて目を逸らした。


【アリサ】「タツヤ……」

【達也】「はい……」


呼ばれた声に応えると、再びオレの手にアリサの手が重ねられた。


【アリサ】「ねぇ……。隠すこと、ないでしょう? 私たち、恋人同士ですのよ……」


アリサが身を乗り出して、背けた顔をじっと見てくる。


【アリサ】「今日、タツヤが私をこの家に誘ってくれて、すごく嬉しかったですわ。初めてタツヤのプライベートな空間を見せてもらえるから。でも、それだけじゃなくて……」


アリサは噛み締めるように言って顔を上げた。


【アリサ】「少しだけ、期待していたんですわ…。タツヤにとって、今よりももっと、近くて特別な存在になれるのではないかと……」

【達也】「アリサ……」

【アリサ】「恋人として、もっと私を求めてくださるかもしれない、と……」


至近距離で目が合う。

濡れたようにきらめく瞳が、すぐそばでオレを見ている。

今まで見たどの表情とも違う、きれいに撮られたどの写真にも見られない、熱を宿した瞳で。


【達也】「オレで、いいのか……?」

【アリサ】「タツヤじゃなきゃ、イヤですわ」

【達也】「そうか……」


迷いのない答えに、胸が熱くなる。

心のどこかでオレは、自分がアリサの恋人でいいのだろうかと思っていた。

美人で、人気者で、それなのに周囲の人に対しては気さくで優しい。

そんな彼女がオレのことを好きだと言ってくれることが、どこか現実離れした夢のように思えていたのだ。

しかし、彼女の言葉はそれを否定している。


【達也】「アリサ……好きだ」

【アリサ】「私もですわ……タツヤ」


身を寄せてくるアリサの体を、しっかりと抱きとめる。

 
 
 

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